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民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し 最終回 [民法]

最終回です。未成年後見監督人が中心です。青が要綱で,黒太文字が現行民法の条文です。

要綱
第3 未成年後見
 4 未成年後見監督人
 ① 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,未成年被後見人,その親族若しくは未成年後見人の請求により又は職権で,未成年後見監督人を選任することができるものとする。
 ② 未成年後見監督人についても,第3の2②及び3と同様の規律とするものとする。

上記は,成年後見監督人の選任に関する現行民法849条の2,それから民法852条による843条4項及び859条の2の準用に対応するものです。

 平成11年の民法改正前から,後見監督人の数については,成年後見監督人も,未成年後見監督人も,複数であってもよいと解されてきました(成年後見監督人については,平成11年の民法改正で民法852条による859条の2の準用によりあきらかにされました)。今回,未成年後見監督人についても,これを法文上明確にし,数人ある場合の権限の行使等について,明文の規定を置き,未成年後見人と同様の規制としようというものではないかと思われます。

 法人が後見監督人になれるかどうかについては,成年後見監督人については認めていましたが(民法852条による843条4項の準用により明らかにされた),未成年後見監督人については,否定に解されていました。この点についても,未成年後見監督人も法人がなることができることとして,それに関する規定を置くことにしたものです。

(成年後見監督人の選任)
 民法第849条の2
 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,成年被後見人,その親族若しくは成年後見人の請求により又は職権で,成年後見監督人を選任することができる。


第4 その他
 1 15歳未満の者を養子とする縁組
 法定代理人が民法第797条第1項の承諾をするには,養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときは,その同意を得なければならないものとする。
 (注)民法第806条の3の規定は,1の同意についても適用するものとする。

親権の停止の制度を認めたことから,親権を停止された親権者の同意について規定しようというものです。

 2 その他
 その他関連する規定について,所要の整備を行うものとする。

後記

ゆっくりし過ぎてしまいました。昨日(3月4日),「民法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されたようです。http://bit.ly/gzuaOx というわけで,あわてて最終回となりました。あわてて書きましたので,間違ったことを書いていないか少々心配ですが,気づいたことがありましたらご指摘ください。


民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その7 [民法]

民法第843条
3 成年後見人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で,更に成年後見人を選任することができる。
4 成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),成年被後見人の意見その他の一切の事情を考慮しなければならない

要綱
第3 未成年後見
  2 未成年後見人の選任
① 未成年後見人がある場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,民法第840条に規 定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で,更に未成年後見人を選任することができるものとする。
② 未成年後見人を選任するには,未成年被後見人の年齢,心身の状態並びに生活及び財産の状況,未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無),未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないものとする。


要綱第3の②は,現民法834条4項の成年後見人に関する規定に対応するものです。未成年後見においては,これまで,未成年後見人が1人に限られたこと,法人がなることは認められていなかったことから,規定がありませんでしたが,今回,成年後見と同じにすることから,未成年後見人の適格性の判断の仕方について規定することにしたものと考えられます。比べてみると,ほとんど同じですが,未成年後見の場合に,「未成年被後見人の年齢」が入っている点が唯一異なります。未成年後見においても,未成年被後見人の意見を考慮することになっていることが目を引きます。


3 未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等
① 未成年後見人が数人あるときは,共同してその権限を行使するものとする。
② 未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,その一部の者について,財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができるものとする。
③ 未成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,財産に関する権限について,各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができるものとする。
④ 家庭裁判所は,職権で,②及び③の定めを取り消すことができるものとする。
⑤ 未成年後見人が数人あるときは,第三者の意思表示は,その1人に対してすれば足りるものとする。

未成年後見人が複数であることを肯定することから,未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等に関する規定が必要になるわけですが,成年後見とその取扱いが異なります。成年後見と比較する必要がある事項です。

以下,黒太文字が,現行民法の成年後見の場合です。
(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
民法第859条の2 成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,数人の成年後見人が,共同して又は事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができる。
2 家庭裁判所は,職権で,前項の規定による定めを取り消すことができる。
3 成年後見人が数人あるときは,第三者の意思表示は,その一人に対してすれば足りる。

 私にとって,少々意外だったのは,成年後見人においては,その権限の行使について,単独行使が原則であるのに対して,未成年後見においては共同行使が原則とされる点です。共同行使とすることによって,その権限の誤用・濫用が防止され,適正な行使が担保されるということでしょうが,しかし,未成年後見人間での意見の一致がみられないときに後見事務の渋滞のおそれは生じないだろうかとも思えます。

 もっとも,要綱は,「家庭裁判所は,職権で,その一部の者について,財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができるものとする」とするほか,財産に関する権限については,「家庭裁判所は,職権で,財産に関する権限について,各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができるものとする。」としているので,これによって,調整されていくことになるのでしょうね。


つづく

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その6  [民法]

民法第842条 未成年後見人は,一人でなければならない。

要綱
第3 未成年後見
1 民法第842条の規定は,削除するものとする。
2 未成年後見人の選任
 ①  未成年後見人がある場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,民法第840条に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で,更に未成年後見人を選任することができるものとする。
 ②  未成年後見人を選任するには,未成年被後見人の年齢,心身の状態並びに生活及び財産の状況,未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無),未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないものとする。


 未成年後見人の数及び法人を未成年後見人に選任することができること

 現民法では,後見人の数及び法人を後見人に選任することについて,未成年後見と成年後見で異なっています。

 未成年後見では,民法824条が,「未成年後見人は,一人でなければならない。」としているのに対し,成年後見では,民法834条3項が,複数の成年後見人を認めています。また,同条4項をみると,成年後見では,法人が成年後見人になることを認めていますが(同括弧書),未成年後見では,規定がありません。

 実は,平成11年の民法改正前においては,成年後見(禁治産後見)も未成年後見も,同じく後見人は一人に限り,法人が後見人になることを認めていなかったのです。同改正により,成年後見についてだけ,複数・法人を認めたのです。成年後見制度の利用者の多様なニーズに応える保護・支援の方策として,成年後見の体制についての選択肢を広げる観点から複数の成年後見人を選任することができるようにしたものであると言われます(成年後見制度の改正に関する要綱試案の解説P9参照)。そして,同様の観点から,法人を成年後見人に選任することができることとしたものです。

 平成11年の民法改正当時においては,未成年後見人は1人で十分であり,逆に,複数であると責任が分散し,事務が渋滞すると考えられ,改正は行われませんでした。

 今回,未成年後見と成年後見とで,複数の後見人を認めること及び法人の後見人を認めることについて,同じにするものです。複数の成年後見人を認めることについては,「例えば,未成年者自身に多額の財産があるような場合に,身上監護については親族から未成年後見人を選任することができるようにしてもよいのではないかといった意見など,複数の未成年後見人を認めるべきとの意見」(児童虐待防止関連親権制度部会資料4P14)を取り入れて改正しようというものです。法人については,「成年後見人の引受手を確保するのが困難であるといわれている。そこで,未成年後見人の引受手の選択肢を広げるために,法人を未成年後見人に選任することができるようにする」(同P13)との考えにより,また,「事実上自立した年長者の場合であれば,未成年後見人が現実に引き取って世話をするということはなく,現実には財産に関する権限の行使が主な職務となることを考えると,法人が未成年後見人の職務を行うことは不適当であると一般的にはいえないとの意見」も取り入れて,改正しようというものです。

 なお,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する中間試案」に関する意見募集に対する意見のうち,上記箇所に関する裁判所と日弁連と日司連の意見を紹介します(児童虐待防止関連親権制度部会資料7 P17~P18,P20から)。

「複数の未成年後見人を選任することができるものとする。」について。
・未成年者の身上監護は親族後見人が責任を持つのが適切であっても,不正あるいは不適切な財産管理を防止するという観点からは,第三者後見人を選任するのが適切な場合があると考えられることや,実務上,成年に達しているが若年のきょうだいしか後見人候補者がない場合や,未成年者名義の高額の財産がある場合など,財産管理について第三者後見人を選任すべき事案が散見されることから,複数の未成年後見人を選任することができるものとすることに賛成である。(裁判所)
・未成年後見人の負担と責任が集中することを避けるために,複数の未成年後見人を選任できるようにすることは効果的であると考えられる。(日弁連)
・未成年後見人が就任しなければならない事案は,複雑なケースが多く,一人に限定してしまえば未成年後見人の負担が大きくなり過ぎ,引き受ける者が限定されてしまう状況がある。また,専門分野の異なる複数の専門家を未成年後見人に選任することが可能になれば,未成年者の利益を優先とした未成年後見人が職務を遂行できると考える。(日司連)


「法人を未成年後見人に選任することができるものとする。」について。
・自然人後見人(特に第三者後見人)にとって,長期間に及ぶ未成年後見は負担が重いが,法人後見人であれば,状況の変化に応じた担当者の交代が可能であることや,未成年者が児童養護施設等に入所している場合,当該施設が後見人になることができることから,未成年後見人として法人を選任することができるものとすることについては,賛成する意見が大勢であった。一方,法人において適切な身上監護が可能なのか懸念されることから,反対の意見もあった。(裁判所)
・現在,親権喪失制度が十分活用されていない一つの理由に,未成年後見人のなり手がいないいう問題が指摘されている。そして,未成年後見人のなり手がいない理由として,現行法では未成年後見人は自然人でかつ一名のみとされていることから,負担と責任が集中してしまう点が指摘されている。そこで,法人も未成年後見人に就任できるようにすることで,かかる集中を緩和することが期待できる。(日弁連)
・未成年者の親族以外の者,例えば法律専門家等の第三者が未成年後見人に就任している場合,未成年後見人が未成年者を引き取って現実に監護するとは考え難い。そのため,未成年後見人の主な職務は財産管理となり,現実の監護は施設長または里親が行っている場合がほとんどであると思われる。したがって,一律に法人を未成年後見人に選任しない合理性はない。もっとも,未成年後見人の受け皿となる法人の要件を定めることも検討すべきである。(日司連)

民法第843条
3 成年後見人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で,更に成年後見人を選任することができる。
4 成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),成年被後見人の意見その他の一切の事情を考慮しなければならない。

つづく

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その5  [民法]

(管理権の喪失の宣告)
民法第835条
管理権を行う父又は母が,管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その管理権の喪失を宣告することができる。

要綱案 第2
3 管理権喪失の審判
父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,管理権喪失の審判をすることができるものとする。

 管理権喪失の制度は,現民法のもとでも存在しますが,要綱案は,これを存続させたうえで,管理権喪失の原因及び管理権喪失の審判の申立人に変更を加えています。親権の停止に対応する管理権の停止の制度は,採用されていません。

 管理権喪失の原因については,現民法が「管理権を行う父又は母が,管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは」としているのに対して,親権の停止の場合と同様とし,「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」としています(親権停止原因については,「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」)。現民法は,「管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは」として,管理権喪失の場面を限定していますが,要綱案は,限定せず,適用場面を広げ,そして,子の側から,子の福祉の観点から判断するという立場に立っていると考えられます。

 管理権喪失の審判の申立人は,親権喪失の審判,親権停止の審判と同じであり,「子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官」とされ,子本人及び未成年後見人,未成年後見監督人が追加されています。


(親権又は管理権の喪失の宣告の取消し)
民法第836条
前2条に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人又はその親族の請求によって,前2条の規定による親権又は管理権の喪失の宣告を取り消すことができる。

要綱案 第2
4 親権喪失,親権停止又は管理権喪失の審判の取消し
第2の1本文,2①又は3の原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人又はその親族の請求によって,親権喪失,親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができるものとする。

 創設される親権停止の審判についても,本人又はその親族の請求によって親権停止の審判を取り消すことができるとするものです。

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その4 [民法]

親権停止の審判の制度の創設

要綱案 第2
2 親権停止の審判
① 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権停止の審判をすることができるものとする。
② 家庭裁判所は,親権停止の審判をするときは,その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,2年を超えない範囲内で,親権を停止する期間を定めるものとする。

現行制度は,親権(全部)の喪失の制度がありますが,親権(全部)の停止(一時的制限)の制度はありません。今回,これを新たに創設しようというものです。

日弁連も日司連も,これに賛成しています(「児童虐待防止関連親権制度部会資料7」)。

日弁連
親権の一時的制限制度の創設は,①親権者が親権回復をあきらめずに,回復の希望を持ちながら裁判所や児童相談所等の指導に従う可能性が高まること,②児童相談所等にとっても,親権者との関係性を維持しながら指導を行いやすいこと,③裁判所の選択肢が広がり,個々のケースの特性に応じた対応が可能となることから,必要性が高い。

日司連
親権喪失後の親子の再統合を考えた場合,現行制度にはない親権制限の期間を限る制度を設けるのが相当である。親権喪失事件の認容割合が低い理由の一つとして,親権制限が硬直的であることが考えられるので,現行の親権制限の在り方については見直す必要がある。

親権停止の原因については,親権の喪失の原因が,「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」とされるのに対して,「子又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされています。

親権停止の審判の申立人は,親権の喪失の宣告の申立人と同一で,「子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官」とされています。

親権停止の期間は,家庭裁判所が,2年を超えない範囲内で定めるものとするとされています。案としては,原則として,2年間として,家庭裁判所が,特別の事情があるときに2年を超えない範囲内で期間を定めて停止(一時的制限)をするというものもあったようですが,家庭裁判所が,事案ごとに「その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間,子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,」相当な期間を定めるものとされました。

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その3 [民法]

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し つづき

黒が現在の民法の条文で青が要綱案です。

(親権の喪失の宣告)
第834条 父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その親権の喪失を宣告することができる。

第2 親権の喪失等
1 親権喪失の審判
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは,家庭裁判所は,子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官の請求により,その父又は母について,親権喪失の審判をすることができるものとする。ただし,2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは,この限りでないものとする。


改正点が3点あります。第1に,親権喪失の原因(親権喪失の審判をすることができる場合),第2に,親権の喪失の審判の申立人の範囲,第3に,ただし書(親権喪失の原因の消滅)です。ここでは,第1と第2についてみてみることにします。

1 親権の喪失の原因
  「父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるとき」⇒「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」と改正しようとするものです。親権を喪失させるものであり,新たに設けられる親権停止の制度(親権を喪失させるのではなく一定期間停止する)を設けることから,停止の場合よりも重大な原因とされています。親権の喪失の原因の典型例として,虐待又は悪意の遺棄を例示したうえで,「子の利益を著しく害するとき」とされ,子の側からみて(現在の民法は一方的に親の側を見ています),子を守るために親権の喪失の審判をするのだということが読み取れます。親権は,子の利益のために行わなければならないのであって,子の利益を守るために,親権の停止,場合によっては親権の喪失の審判が行われるということですね。なお,これまで宣告とされていましたが,「審判」とされています。

 なお,親権の停止の原因は,「子又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされています(要綱案第2の2の1)。

2 親権の喪失の審判の申立人の範囲
  現在,民法上は,申立人は,「子の親族又は検察官」とされ,別に,児童福祉法33条の7により児童相談室長も,請求することができるものとされています。要綱案は,「子,その親族,未成年後見人,未成年後見監督人又は検察官」として,子本人及び未成年後見人,未成年後見監督人を追加しています。この申立人については,親権の停止の審判と同一とするものとされています。

 申立人に子を加えることについては,かなりの議論があるようです。実際問題としては,年長の子どもが問題となるものと考えられます(もっとも,年齢による制限は設けられていません・・・一定年齢以上の子に限って認めるという考えもあったようですが)。児童相談室長その他の申立権者による適切な行使で足りるとか,親子関係を決定的に損なってしまう,子どもが親族間の紛争に巻き込まれる等々を理由とする反対論があるようですが,要綱案は,子を申立権者に加えました。児童相談室長その他の申立権者による適切な行使を期待することができない場合等があることを考慮したものと考えられます。

 民法834条は,明治民法の規定をそのままうけたものだと言われますが,明治民法制定の際,子本人が申し立てることができない理由として,「子トシテ親ヲ訴フルハ名分ノ上ニ於テ許ササル所ナルヲ以テ」(理由書156)ことが挙げられています。(名分とは,身分・立場などに応じて守らなければならない本分 大辞林)

 未成年後見人及び未成年後見監督人が追加されていますが,これは,親権者が親権を有していても,親権者が親権を行使することができないことを理由に未成年後見の開始の審判を受けている場合があることによります。特に,親権の停止の審判が行われた場合には,未成年者について後見開始原因となって,未成年後見人(及び未成年後見監督人)が選任されていたところ,虐待等の程度がひどくなって,親権の喪失の原因が生じた場合に効力を発揮するのではないかと思います。未成年後見人(及び未成年後見監督人)については,文言上,別に限定はありません。親権者が管理権の喪失の宣告を受けた場合にも,未成年後見が開始し,この場合に選任された未成年後見人も,親権の喪失の審判を申し立てることができると解されます。

 検察人が申立権者として残されています。検察官を除くのではないかということを何かで読んだ記憶があるのですが(明治民法から現民法になる際にも同じ問題が生じていたそうです。明治民法時代に検察官を申立権者から削除することになっていたが,現民法で,検察官を残したようです)・・・。実例としても,検察官が申立人となったことはないのではないかと思われるので,除くのではないかと・・・。しかし,要綱案は,検察官を残しました。親権喪失・親権停止によって子を救う最後の切り札として残しておくということでしょうか。注釈民法(23)P167は,現行民法で検察官も請求権者であるとされたことについて,「親権の義務性とくにその社会的義務性が強調されていることに照応するものと解する。」とされています。

民法の改正 児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し その2 [民法]

現在の民法の条文と要綱案を対比させてみて行こうかなと思います。青が要綱案で,現在の民法等の条文をはさんで示していくことにします。

(監護及び教育の権利義務)
第820条 親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。

第1 親権の効力
1 監護及び教育の権利義務 親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負うものとする。

(懲戒)
第822条 親権を行う者は,必要な範囲内で自らその子を懲戒し,又は家庭裁判所の許可を得て,これを懲戒場に入れることができる。
2 子を懲戒場に入れる期間は,6箇月以下の範囲内で,家庭裁判所が定める。ただし,子の期間は,親権を行う者の請求によって,いつでも短縮することができる。

2 懲戒
① 親権を行う者は,第1の1の規律による監護及び教育のために必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとする。
② 民法第822条の規定中,懲戒場に関する部分は削除するものとする。

自分には親権・懲戒権がある(法律で保障されている)として,自分の児童虐待を正当化する親がいること等から,民法に定められた懲戒権の規定を削除すべきであるという意見があるようですが,要綱案は,懲戒権の規定を残したうえで,字句の追加・修正,削除をするものとしています。

まず,民法820条に,子の看護・教育権は,子の利益のために有することを明記し,民法822条1項について,「親権を行う者は,第1の1の規律による監護及び教育のために必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとする」という形で逸脱した懲戒は認められない旨を示そうとしています。

また,前回,言及したように,懲戒場に関する規定は削除するものとしています。

続く。

民法の改正 「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案」 [民法]

民法の改正 「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案」

法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会(部会長 野村豊弘学習院大学教授)は,12月15日,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する要綱案」を取りまとめ,法務省はこれをウェブサイトで公表しました。http://bit.ly/hA8UvL

法制審議会は,来年2月,法務大臣に正式に答申する見通しで,政府は,通常国会に民法など関連法案の改正案を提出する予定とのことです(12月16日付け朝日新聞)。

今,立法担当官初めたくさんの人が条文作成の準備にかかっているのではないかなと思います。

一昨日と昨日,年末のあいさつかたがたということだと思いますが,司法書士試験受験生の2人から同じ質問がありました。民法改正についてです。債権法の改正のことかなと思いましたが,いずれも,親族法ということなので,上記のことでした。もっとも,成立は4月以降でしょうから,今年の司法書士試験には現在の民法に基づいて出題されることになるのでしょうが,このあたりのことを勉強しておいて損はない(この箇所の出題の可能性も・・・)ということを話しました。

それで,私は,今,「児童虐待防止のための親権に係る制度の見直し」について読んでいます。

今,自分にとって一番興味があるのは,あるいは知りたいのは,実際に,その条文がどのように生きているか,利用の頻度,利用のされ方等です。そういうことが書かれている文献をみると,うれしいですね。

例えば,民法822条は,次のように規定しています。
(懲戒)
民法第822条 親権を行う者は,必要な範囲内で自らその子を懲戒し,又は家庭裁判所の許可を得て,これを懲戒場に入れることができる。
2 子を懲戒場に入れる期間は,6箇月以下の範囲内で,家庭裁判所が定める。ただし,この期間は,親権を行う者の請求によって,いつでも短縮することができる。

この条文をみて,いつも,どれだけの人がこの制度を利用しているのだろう,懲戒場ってどんなところなのだろうと,かつてよく思っていました。内田先生の民法Ⅳで,このことに触れてある箇所にきて,うむむ・・そうなのか・・・でした。懲戒場に該当する施設は,戦後の児童福祉法・少年院法の制定とともに存在しなくなった・・・したがって,民法822条2項の意味は失われている。

今回の要綱案では,「民法第822条の規定中,懲戒場に関する部分は削除するものとする。」となっています(要綱案第1 2 ②)

児童虐待の事件の報道が多くなって,親族法の勉強の際,民法822条(懲戒),834条(親権喪失の宣告),835条(管理権喪失の宣告)のあたりで,児童虐待のことが頭に浮かぶようになっていると思いますが,特に,児童虐待防止のため,親権喪失の宣告の制度が多く利用されていると思いますよね。

そうではないのだそうです。平成21年度の親権の喪失の宣告事件は,新受件数が110,そのうち,親権の喪失の宣告が21だそうです。後見人との違いでよく勉強する管理権喪失の宣告は,なんと0です(法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会 参考資料3-3)。

どうしてか?この点に関して,以下の文章を引用したいと思います(児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しに関する検討事項(1)第1 1 補足説明 1)。

「現行の親権喪失制度については,①その効果が期限を設けずに親権全部を喪失させるものであること(いわばオール・オア・ナッシングの制度であること)から,効果が大きくて申立てや宣告がちゅうちょされる,②その要件である親権喪失の原因が親権の濫用又は著しい不行跡とされていることから,申立てや審判の在り方が親権者を非難するような形になり,親権喪失宣告後の親子の再統合に支障を来すといった問題があり,必ずしも適切に利用されていない状況にあるものと考えられる。
 そこで,第1の1では,親権喪失制度について指摘されている前述のような問題点を解消し,現実の必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするために,民法に,家庭裁判所の審判により一定の期間に限って親権を行うことができないものとする制度(親権の一時的制限制度)を設けるとともに,親権喪失の原因について見直しを行うことを提案している。」

以下,児童虐待防止関連親権制度部会資料等を参照しながら,続きを書こうと思っています。

今年もあと14時間弱となりました。どうぞよい年をお迎えください。